企業がグローバル人材の育成を急ぐ中で、EQ(感情知能)に再び脚光が当たっている。異文化での感情表現を理解するといったスキルが、組織の団結力向上や業績改善に効果を発揮するとされる。理論の提唱者の1人で、米エール大学学部長特別補佐のデイビッド・R・カルーソ氏に、企業や教育現場で導入が進むEQの最前線を聞いた。
「いわゆる『空気を読む』力をはじめ、感情の調整や柔軟性、心のオープンさなど幅広いスキルで構成される。最も重要なのは相手の感情を正しく読み取る力だ。EQの高いリーダーの下ではチームの士気や生産性が高まり、結果として優秀な人材の定着につながる」
「誤解してほしくないが、“いい人”になる手法ではない。むしろ厳しい感情をあらわにすることが、リーダーとして賢い場面もある。部下が不適切な言動をした場合、EQの高い上司なら皆の前で声を荒らげずに『ちょっとこっちへ』と部下と2人きりになる。『二度とするな』と注意し、『分かってくれて良かった。ありがとう』と部下の不安を鎮め、自らも深呼吸で緊張をほぐしてから穏やかに職場に戻る」
「取って代わるわけではない。仕事で成功する要件は今も昔もIQが高いこと。EQは学習と訓練で向上が可能で、IQが高い人は習得も速い。どちらかではなく両方が必要だ」
「ただ、これまで企業は人材の採用でIQにばかり目を向けてきた。EQを測る軸も採用や育成の段階に加えるべきだ。頭脳明晰(めいせき)だが協調性に欠けるエンジニアを中国など海外に送り込めば、失敗するのはある意味当然といえる」
「EQが高い人はストレス耐性が高いという調査結果がある。職場の多様性(ダイバーシティ)が増す中でとても重要だ。様々な国籍の人材を管理するには異文化の感情表現を知る必要がある」
「わたしが日本で『今どんな気分ですか』と聞くと大方の人は『まあ幸せです』と答える。率直な感情を言うのは適切ではないと考えられているからだ。逆に日本人の下で働く外国人は、上司が自分の仕事ぶりに本当に満足しているのかどうか分からないことがある。違いを知ればコミュニケーションが円滑になるだけでなく、より短時間で目標を達成できる」
「理論に基づく検査や能力開発のトレーニングがある。笑顔や泣き顔なの表情の写真を見て、素早く『わくわくしている』『悲しい』といった感情を言い当てる感情識別訓練などだ。経営者にテストを受けてもらうと、事前の自己申告と結果に開きがあることが多い」
「仕事の内容に応じた必要な感情をチーム内に作り出せる人のEQは高い。例えば競合他社が不正な攻撃を仕掛けてきたとする。『私は怒っている、戦おう』と部下に火をつけ、対策を考える段では『いいアイデアだね』と発言が喜ばれる雰囲気をつくる。次に皆を落ち着かせ、対策に欠点がないか練り直す。感情の適切な利用は思考や意思決定を助ける」
「一般的に女性の方がEQは高い。ただ米国の女性経営者は男性を学習対象として意識するあまり、IQの高さの証明に躍起だ。グローバル化が組織変化を促す中、次世代リーダーはEQというもう1つの知能を伸ばす必要性に気付いてほしい」
source from 2010/12/06, 日経産業新聞